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ライ麦畑の向こう側

解体新書と備忘録です。

夢か現実か幽体離脱

先日のNY出張が祟ってか、どうもこうも調子が悪かったこの一週間。


精神的には元気だけど体力はどうもついていかない、ということで不毛な幸福を得るための代休を取り、ぼんやりこの時間までソファに座っていたわけだ。


休みの日にはたいていの場合、はやく起きてぶらつきたい想いと、ベッドの中でもう少しうずくまっていたい想いと、昼前の熾烈な睡魔との闘いが繰り広げられる。
結果的には睡魔が勝つことがしばしばだけど、そういうスッキリしない時には決まって金縛りに遭って気持ちが悪い目覚めを得るのだ。


今日もそんな日だった。
朝から連れの出勤までの一連の儀式を見送り、その後ろ姿を眺めながらベッドに倒れ込むと、スマートフォンを片手にいつもの通り眠気との闘いを始める。今日はあっけなく負け戦になるわけだけど、やっぱり金縛りにあうことになった。


金縛りといっても、結果的には脳が起きてて体が寝ててみたいな言って見れば普通に科学的な話なんだけど、今日の場合はちょっといつもと違っていた。少しだけ体の自由がきく金縛りなのだ。
なんのこっちゃというわけだけど、要は金縛りにあっている中ではおよそ最高レベルで体に力が入り、「あれ、これやっぱり起きてるんじゃない?」みたいな錯覚に陥るというわけだ。いつものごとく耳がキーンと鳴り響き、気持ち悪いなあ気持ち悪いなあ、と思うことは変わらないのだけど。力だけはいつもと全く違ってグイグイ入るわけだ。


視線はずっと変わらず、部屋の給気口に注がれている。斜め左上の、リビング上部についているその口から嫌な音が聞こえている気がしているけど、たぶん違うんだろう。そんなことを思っているのか後付けなのかわからないけど、ベッドの上で転がりながら10分ぐらいは眺めやっていた。
ところがどっこい、今日はやれる気がした。そう、金縛りに遭うたびに挑戦し続けていた「雄叫びをあげながら起き上がる」ということを。


うおおおおおおおおおおおおおおお!
なんつってハルクさながら起き上がり、やけに無駄なしたり顔をかましてやること。
それが、中学時代からずっと恐怖を与え続けられてきた金縛りに対しての勝利だと確信していた。


何はともあれ挑戦するしかなかい。今日は力が溢れているのだから。
そう思ったか後付けなのか、とにかく力を振り絞るけどどうにもこうにも体はベッドに縛り付けられている。

「今日も負けるのか?」
「そんなはずじゃないだろう!」
「弱音をはくな!」

と、スポ根丸出し松岡修造の顔がちらついたのか後付けなのか、やっぱり僕は再度挑戦をしてみる。


そのとき、少しだけ動いた。
少しだけ自分の腕が上がった気がするのだ。

これはいける。

確信したのか後付けなのか、僕は最大限の力を振り絞った。最近なまけがちなキックボクシングで軽く鍛えた腕の力を、ここ最近なかったんじゃない?というレベルで振り絞り、己の両拳を天高く突き上げるべく心のなかで叫んだ。


うおおおおおおおおおおおおお!とやってみるが、まだだめだ。
はあああああああああああああ!とやってみるが、やっぱりだめ。


これだけは使いたくなかった、と思ったのかわからないけど「せええええええええええええい!」と力を入れた瞬間に腕が上がった。

「やった!ついにだ!ついに勝ったんだ!」

と思ったか思わなかったか、そうこうしているのもつかの間。天高くあげられたはずの自分の拳はおろか腕までも、どう見てもこれまで慣れ親しんできたものではない。
動くことのできない僕が目にしたそれは、漫画でよくみてきた少しだけうっすらしていてぼんやりプラズマがかっているそれだ。


そう、僕は25にしてようやく幽体離脱をかましてやった。これも人生のなかで少しだけ憧れていた夢の体験だ。存在への勝利。個からの脱却。精神世界への誘い。いうまでもない非科学的体験。


でも、考えてみてほしい。金縛りにあって耳がキーンとなっていて「気持ち悪いなあ気持ち悪いなあ」なんて思っているときに、自分の幽体みて「やったー!」なんてどう考えても常人じゃない。たぶん、これはなってみないとわからないけど、本当に怖くてちびりそうになる。と思う。(後付けだからわからないけど)


だから、叫んだ。僕は限りなく声にならない声で叫ぶ。そうこうしている間にも僕の幽体は腕だけでなく体ごと抜けていってしまう(感覚に陥っていたとおもう、後付けだからわからないけど)。

まて、だめだ、まだだめだ。まだ式挙げてないじゃん。ていうか、代休とって昼寝してたらもぬけのからになってましたって誰が説明すんだよ。まてまてまてまてまて!
とか色々考えて、「やっぱり生きたい!もう少し生かしてください!あああああああああああああああ!」とか思ってたら、

 

あああああああああああああああああああ!
って言いながら布団跳ね飛ばして一気に起き上がった。
それはもう、たぶん人生でないくらいに目ん玉ひんむいていたと思う。
あと、すごく汗くさかった。


こうして僕は、不毛な幸福が得られると考えていた何の変哲もない代休の金曜日、人生で達成したいと夢みていた”幽体離脱”と”雄叫びをあげながら金縛りを解くこと”を達成した。


Life is wonderful.
明日はきっと晴れる。
本当に生きていてよかった。